定義と概要
「カゴノトリ」(籠の鳥)は、日本語の慣用句(漢字表記:籠の鳥、篭の鳥)である。読みは「かごのとり」。文字通りの意味は「籠の中に閉じ込められた鳥」であるが、比喩的に用いられて、身の自由が束縛されている状態、またはそのような境遇にある人物を指す。
語義
辞書(『デジタル大辞泉』、『精選版 日本国語大辞典』)によれば、主に以下の二つの意味が認められる。
- 自由を奪われた状態の比喩:籠の中の鳥のように、行動の自由が制限されている状況のたとえ。また、そのような境遇に置かれた人。
- 遊女の婉曲表現:上記の境遇から派生して、遊郭から自由に出られない遊女(娼妓)を指す隠語的用法。近世の浄瑠璃や浮世草子に用例が見られる。
さらに、『精選版 日本国語大辞典』では、ぜんまい仕掛けで動き鳴くおもちゃ(張り子細工など)を指す用法も記載されている。
歴史・文献上の用例
「籠の鳥」の比喩表現は、中世から近世にかけての文献に複数確認されている。
- 浄瑠璃: 近松門左衛門作『今宮心中』(1711年頃)に「二郎兵衛めはかごの鳥」とあり、捕らわれの状態を指す用例として確認できる。
- 浄瑠璃『冥途の飛脚』: 「籠の鳥なる梅川に焦がれて通ふ廓雀」とあり、遊女を「籠の鳥」と表現している。
- 浮世草子: 『浮世栄花一代男』(1693年)などにも用例がある。
- 風俗画報: 明治期の用例として、大奥の女中を「籠の鳥同様」と表現した例が確認できる。
- 太平記・徒然草: 鳥籠とその比喩表現に関する言及は、14世紀の軍記物『太平記』や兼好法師の『徒然草』第121段にも見られる。
派生用法
- 流行歌・映画: 1922年(大正11年)に発表された流行歌『籠の鳥』、および1924年(大正13年)公開の帝国キネマ映画『籠の鳥』(松本英一監督、歌川八重子主演)の題名として用いられ、社会現象となった。退廃的な曲調が当時の「国民精神作興ニ関スル詔書」の趣旨に反するとして、一部で歌の禁止や上映時の合唱規制が行われた。
- 類義表現: 「籠の中の鳥」はほぼ同義。「池魚籠鳥(ちぎょろうちょう)」は中国の典故に由来する漢語表現で、同様に自由を奪われた境遇を意味する。対義語は特に定まっていない。
語源
「籠の鳥」の語源は、鳥を籠に閉じ込めて飼育する慣習そのものに由来する。古くは鳥を飼いならすための籠が、転じて「閉じ込められた状態」の象徴として用いられ、比喩表現として定着した。『和漢三才図会』(1712年)には鳥籠の説明が記載されており、ウグイスやウズラなどを飼育する道具として記録されていることから、この比喩が生活文化に根ざしたものであることがうかがえる。